「粗利益を増やすために安い仕入先を使う」は正しい?

以前、加盟店開発の責任者をしていた時にスタッフに特に伝えていたのが、チェーンの店舗開発担当ほど町の電器屋さんの応援団であり、お困りごとに耳を傾けられる人であって欲しい、ということでした。

 

その際にテーマとして話していたのが「町の電器屋さんのV字回復は何故構造的に失敗しやすいか?」という話。いくつか理由がありますが、その一つとして銀行や税理士さんに相談した時に言われがちな「仕入を抑えて粗利益を上げましょう」について、今回は簡単に検証してみます。

 

とにかく安いところから仕入れようとする

例えば決算書を見て粗利益率が業界平均より低い、仕入先を変えて利益率を高めましょう、というアドバイスをされたとします。実際にお客様との商談の場面でも量販店やネットと比べられ、肩身の狭い思いをすることもあったりすると図星を突かれた気持ちにもなりますよね?

 

そうした時に例えば地元の問屋やネットで調達先を探して、少しでも粗利益率を高めようとします。

 

(仕入値)8万円 → (売価)10万円

↓  ↓

(仕入値)7.5万円 → (売価)10万円

 

確かに粗利益率が5%もアップしました。単純な計算であり、多くの電器店さんはこんな単純な話だけではないことも分かっておられますが、それでもこれは麻薬的な魅力があってこれを繰り返すスパイラルに嵌って行く場合も。

 

(月仕入値)160万円 → (月商)200万円

↓  ↓

(月仕入値)150万円 → (月商)200万円

 

手元に10万円残る!と幻想を見てしまうのですよ。実際はなかなかこうはならないんです。

 

覚えておきたい。月間粗利益額は「売上-原価」で決まらない

上記は粗利益額を大きくしよう、とやっていることですが、粗利益額は単品では確かに「売上-原価」ですが、月間粗利額はそれだけでは決まりません。町の電器屋さんが「売上を増やしたい」「粗利額を増やしたい」場合、3つの要素に分解して考えないと上手く行きません。

 

粗利益額)=(リピーター数)×(客単価)×(粗利益率)

 

(リピーター数):いつもご利用いただけるお客様世帯数。アトム電器では「3年以内に3万円以上のご利用」と定義しています。

(客単価):一世帯あたりのご利用額。でんきやさんの場合、買換えスパンが長いので3年間のご購入から見て、それを月平均しています。

(粗利益率):商品・修理を合わせた粗利益率。町の電器屋さん業界の平均は30~35%と云われます。

上記の「その都度安いところを探して仕入れる!」みたいな行動をこの公式に落とし込んでみると、実際は下記のような結果になる場合が多いです。

 

確かに粗利益率は上がりますが、店長さんの意識が値段に向けば向くほど安売り志向となり、客単価が下がってしまいます。また商品価格が前面に出た販売体制になりがちなので他店との違いが見えにくくなり、少なからずお客様の離反を招いてしまうことも。気付いた時には「以前より(仕入先探しで)忙しくなったのに殆ど儲けは変わらない」恐ろしい結果になってしまうんですね。

 

銀行の担当者さんや税理士さんは「粗利益額を増やすために、粗利率を上げましょう」とアドバイスしがちです。上得意様のワガママに今回だけお付き合いする、など限定すればそれでもいいのですが、町の電器屋さんの経営的に「粗利益率を上げること」を行動指標にするのは、やはり間違いと云わざるを得ません。それを証拠に経営改善を進めた筈なのに元の木阿弥。ここまで極端では無いにしても、こんな経験話を沢山の電器店さんから伺っています。

 

ですので本部スタッフにもこうした経営事情に共感できるようになってもらうおうということなんですね。

このブログを書いた人

メオマサユキ

(株)アトムチェーン本部 店舗運営部長。「アトムのメオマサさん」で長く公式アメブロ「町の電器屋さんの小さな販促実践委員会」を担当。㈱アトムチェーン本部入社後、経理、法務、 加盟店相談、店舗開発、物流部長を経て、2023年3月より現職。